Testing Ground

フォーカル Kanta N°1 試聴: 超ハイクオリティーオーディオ向けブックシェルフ型スピーカー

2種類の素材でデザインされたフォーカルKanta N°1スピーカーはオリジナリティあふれるルックスを持ち、ブックシェルフ型というデザインのおかけであらゆる場面になじむことができる。比較的小型ではあるが、それでも余裕を感じさせるサイズとなっていることで、どんな部屋に置いても空間を引き立ててくれることが容易に想像できる。そして本機には、フォーカルのトレードマークでもあるベリリウム製ツイーターが搭載されている。このスピーカーは、至高のハイファイサウンドに対する現在のフォーカルの思想を私たちに伝えてくれる。

※この記事はQobuz海外版からの翻訳です。日本の状況とは異なる場合がありますのでご了承ください。

フォーカルの現在のカタログには、多くのハイファイスピーカーがラインナップされている。どのクラスの製品も完璧と言える内容で、ハイファイオーディオからホームシアターまで、あらゆるシステムやフォーマットに適合するように、ブックシェルフ型からフロアスタンディング型、センタースピーカーまで揃っている。このラインナップも、さらに充実させる余地がまだあるが(UtopiaやSopraに続くもの)、その中でもKanta N°1は、おそらくはこのクラスのスピーカーとしてはトップと言える存在になっている。それは、この“小型”と言えるKanta N°1のペア価格が740,000円(税抜)となっていることからもよく分かる。

この価格は、このクラスの製品がフランス国内で製造されていることによるものでもある。フォーカルのワークショップは、キャビネットからスピーカー、フィルター、外装の木部から塗装まで、全ての構成部品、全ての製造段階について責任を負っているのだ。そしてこのフランス生まれという情報が見逃されることはない。スピーカーの前面と背面、そして添付の文書にそのことが記載されているからだ(さらには最後の一押しとして、製品の最終段階でのチューニング担当者の手書きのサインが入った小さいカードまで入っている)。これが、リビングルームに「メイド・イン・フランス」の製品を置くことへのプライドを高めてくれることは間違いない。

製品仕様

● ブックシェルフ型スピーカー

● 価格:814,000円(ペア/税込)

● 形式:2ウェイ・バスレフ型

● 構成:27 mmベリリウム・ツィーター×1、165 mm FLAXウーファー×1

● 周波数特性:46Hz~40kHz(+/-3 dB)

● 感度:88 dB/1 kHz

● 定格インピーダンス:8Ω(最小3.9Ω)

● 許容入力:150W

● 外形寸法(L×H×D):W234×H422xD391mm

● 重量:13 kg/1台


Kanta N°1の概要

このスピーカーを一目見れば、これがフォーカルの製品であることはすぐにわかるはずだ。フロントパネルの下部に大きくロゴが取り付けられてはいるが、それを見なくとも製品のシェイプを見れば一目瞭然。このブランドのスピーカー第一弾としてUtopiaを発表してからずっと、フォーカスはスピーカーのフロントパネルにカーブを加えたデザインを採用し続けている。すべてのコンポーネントにつけられたアングルが「焦点(フォーカルポイント)」を形成するようになっており、このスピーカーもあなたのリスニングルームの中に音のスイートスポットを作り出すのだ。

Kanta N°1はこれと同じデザインの原則を踏襲しており、カーブのついたフロントパネルにはツイーターが垂直に、そしてウーファーが少し上向きに角度をつけて取り付けられている。フロントパネルは通常の木製ではなく、高密度ポリマー製だ。この素材のおかけで非常に堅牢になり、音の振動の影響を受けにくくなっている。サイドパネルはこのユニットのメインボディの一部であり、型押しした単一の板で作られている。トップパネルはガラス製で、Kantaの高級感の演出に一役買っている。

ユニットの色と仕上げの選択肢は多い。スピーカーの前面はマット仕上げのダークグレー、アイボリー、ホワイトなどが選べる。さらにラッカー仕上げもある。サイドパネルは黒のラッカーとウォルナットがある。少々個性的なルックスが好きな人には、マット又はグロス仕上げのブルーや、グロス仕上げのイエローも用意されている。あらゆる好みに対応しており、これだけ選択肢が多ければ、自分の部屋のインテリアに馴染むデザインを選ぶのも簡単だ。

Kanta N°1は2ウェイ形式である。16.5 cmのミッドウーファーには、高品質のFlaxファイバーを2枚のファイバーグラス製シートの間に封入した、Flaxコーンが採用されている。全体に薄く軽量で、これはリアポートをのぞき込むと確認できる(Flaxの膜を通って光が見えるのだ)。これがTMDサスペンションによって固定されることで、固定されたセントラルコアカバーからの独立が保たれている。


Kanta N°1の操作性

ユニットの2ウェイのスピーカーは、伝統的な2,400Hzのクロスオーバー周波数に設定したパッシブ型である。クロスオーバーは、適切な接続を行うためのブレードを持った1点の高品質ターミナルブロックに接続されている。バイワイヤリングやダブルアンプのオプションはない。フォーカルは、このスピーカーはシンプルなステレオアンプにつないで使ってこそベストの働きをする、と自信を持っているのだ。

アンプの推奨出力レンジは25Wから150Wまでの範囲で、選択肢は非常に広い。感度は平均的な88 dBで、100W近い出力で使ってもよさそうだ。インピーダンスの最低値は3.9 Ωなので、アンプを選ぶ際には注意が必要だ。

Kanta N°1は、25㎡以下の室内に最適で、これより広い部屋なら、フロアスタンディング型のKanta N°2またはN°3がおすすめだ。また、この美しくユニークなスピーカーのミッドウーファーを保護するために、マグネット式の円形カバーがある。フロントパネル全体を覆うカバーはない(そんなカバーにしたら美しいフィニッシュが隠れてしまう)。ツイーターは、繊細なベリリウムに触ることがないよう、スタイリッシュなメタル製グリルに守られている。


試聴

このユニットをブックシェルフのテスト用ユニットと同じ置き方(通常のスピーカースタンドと同じ高さの家具の上)と、IsoAcousticsインシュレータースタンド上にも置いた。125WのParasoundアンプ2台で駆動した。いつも使っている試聴用音源を流して、リスニングエリアに対するスピーカーのポジションと向きをチェックした。その後ユニットを背後の壁から離し、リアベントのフォームカバーを外してベントを機能させた。その後中程度のボリュームでシステムを数時間動かしてから、数日間にわたる試聴を開始した。

大森日向子の電子音楽作品『A Journey』によって、Kanta N°1の能力が完全に示された。音のレイヤーはクリアで正確であり、音像が明確だ。このレイヤーが作り出す音のカーペットが目の前からどこまでも遠くに伸びていき、聴く者を音楽にひたらせてくれる。

デラックスのラテンファンク作品『Moustache Gracias』では、複雑に構成された多様な音の各要素がスムーズに再現された。一人ひとりのミュージシャン、一つひとつの音をクリアに再現してくれるので、音楽の全体像をすぐにつかむことができる。音質はシルキーであり、ミッドレンジは信じられないほど豊かで、これが金管楽器の音の再現に一役買っている。

ブレイクボットの最新シングル「Remedy」をプレイしてKanta N°1の低音域の再生能力をテストした。特定の帯域が強調しすぎになることもなく自然で、だがインパクト十分の低音が、音楽を美しく再生してくれる。低音の輪郭も明瞭で音質的にもリッチ、そして分離も素晴らしい。このスピーカーにはサブベースはないが、卓越した低音域の再生能力のおかげで再生音には自然な深みがあり、リアルで安定感のあるサウンドを楽しめる。

Kantaは、クラシックにも向いている。音場の広がりは、スピーカーで音楽を聴いていることを忘れさせてくれるほど。ヘルベルト・ブロムシュテット指揮の「ブラームス:交響曲第2番」をプレイしたが、そのサウンドはステージ上の楽器の配置が分かるほど解像度が高く、オーケストラが自分の部屋にやってきたようにさえ感じられる。ここでも音の深みは極上だ。通常より少し離れた位置に座って聞いてみると、アンサンブルのサウンドがさらに向上することも分かった。金管楽器も弦楽器も再生音はナチュラルで、不自然な強調は感じられない。これもフォーカルの強みの一つで、強調しすぎることなく細かいディテールまで再生する技術があるのだ。


最後に

フォーカルのブックシェルフ型スピーカーKanta N°1は、私たちがハイファイ製品に期待するものすべてを完璧に表現してくれる。音楽を生々しく再生する一方で、決して冷たいサウンドにはならない。特定の帯域を強調しすぎることなく、そのままの音を届けてくれる。この音のおかげで時間を忘れられて、決して退屈することはない。Kanta N°1は奥行きのある音場とナチュラルな再生音を表現してくれる。各々の楽器や録音している場所の細部まで正確に再現するが、そこにわざとらしさが一切ない(低音域の充実ぶりと印象的な再現能力に依るところは大きい)。ドラムスや他の打楽器たちのサウンドも驚くほど細密で、しかもナチュラルだ。さらに、仕上げと色の組み合わせが多いことで、部屋のインテリアに合うものも選びやすくなっている。