Testing Ground

THX Onyx 試聴: パワフルなヘッドフォン出力を持つ驚くべき小型USB-DAC

近年、小型USB-DACの機種が増え続けている。用途はいたってシンプル。スマートフォンのオリジナルのヘッドフォン出力にする、ということだ。スマートフォンのメーカーにとって、自社の計画表のトップに掲げられている、オーディオファイル品質への要求に応えることは、決して難しいことではない。世界的に有名なTHXブランドの製品THX Onyxは、移動中でも室内でも、ヘッドフォンで音楽を楽しめるコンパクトで高性能な機器だ。

THXは、世界中でその3文字が映画館のサラウンドシステムと結び付けて認識されており、現在はホームシアターの領域にも進出を果たしている。THXは多くのホームシアター製品にその名を冠している。さらにはハイファイ(THX AAA)と3Dサウンド(THX Spatial Audio)の処理と拡張のためのテクノロジーも開発している。THXは先日、ヘッドフォンのユーザーに対して小型USB-DACアンプの開発能力も持つことを示した。THX Onyxがそれである。

Onyxは、THX AAA増幅回路を用いた高解像度のハイファイ品質を持つオーディオである。本機によって同社は、必ずしも予想していなかった分野において、その技術力の認識されるようになっている。しかし、既に多くのハイファイ製品メーカーが自社のヘッドフォンアンプや、時にはヘッドフォン自体に、AAA回路を既に組み込んでいる。その一例が、ラップトップやヘッドセット、人間工学に基づくゲームチェアやゲームコントローラーなどの多くのゲーム用製品で知られるRazerだ。THXと緊密なパートナーシップを結んでいるRazerは、自社のウェブサイトでOnyx DACを販売している。

製品仕様

●USB-DACアンプ

価格:24,880円

インピーダンス:22~1.000Ω

出力インピーダンス:0.25Ω

ダイナミックレンジ:118 dB

歪み(THD+N、1 kHz):-110 dB

入力:USB-C +(USB-A=USB-C変換アダプター含む)

出力:マイク互換ステレオミニジャック(Apple非対応)

寸法:W208×H12×D7mm

重量:18g

THX Onyxの概要

ポータブル小型DACのカテゴリーは現在発展中だ。スティック状のUSBメモリより少し大きい程度の面積にD/Aコンバーターやプリアンプ/アンプのセクションを組み込めるほどのコンポーネントの小型化は、今のところ実現していない。そして、真に高品質のコンポーネントを用いて、これが実現するようになった。THX Onyxは、ESS9281PROチップを使っている。このチップは、きわめて小さいサイズや消費電力の低さなど、特筆すべき特性を持つことから、USB-DACに多く用いられている。その他の特徴として、このチップはPCMとは異なる2つのハイレゾオーディオフォーマットであるMQAとDSDを出コードできる。万能と言える互換性を誇っているのだ。

この製品がその名にTHXと冠されているのを見逃すことはないだろう。その名はまず映画界で認められるようになり、徐々にその他の音響関連分野に広がっていった。ホームシアターはもちろんのこと、最近ではヘッドフォンアンプにも及んでいる。本機には、Achromatic Audio Amplifier用のTHX AAAテクノロジーが盛り込まれている。この技術によって、ダイナミックレンジを拡張できる、最も誠実なサウンドが送り出される。この技術を使うことで、THX Onyxは180 mW/チャンネル(22Ω)という、最もパワーを必要とするヘッドフォンも駆動できる出力を得ている。室内で使用するハイファイ機器でも、ピュアなパワーについてはここまで届いていないものもある。

このUSB-DACは、非常に小型だ。電子部品のハウジングからUSB-Cプラグまでの距離は、わずか10cmほど。フレキシブルなケーブルで接続することで、THX Onyxは簡単に折りたためるようになっている。さらにケーブルをたたむと、2つの端部を合わせてマグネットで保持することで、さらなる省スペース化を実現している。手持ちの機器にUSB-Cプラグがなくても、THXはUSB-A接続用のコンパクトなアダプターを提供している。

エレクトロニクスの方に目をやると、DACは端子として3.5 mmミニジャック出力を持っている。前述の通り、ほとんどのヘッドフォンを駆動できるだけの十分なパワーがある。バランス型出力はない。バランス出力が必要な場合は、他社機を探す必要があるだろう。出力は最大2Vなので、本機はアンプやアクティブスピーカーのアップストリームとして使用することが可能だ。すべてに小ささを求める人には、スマートフォンにTHX Onyx DAC、そしてアクティブスピーカーといったシンプルな構成がおすすめだ。

THX Onyxのインストール

3.5mmのヘッドフォンジャックは今でもPCやタブレット、スマートフォンなどに普及している。しかしスマートフォンについては、これに代わってUSB-Cが多く用いられるようになっている。しかしスマートフォンのメーカーの中には、USB-Cとミニジャックのドングルを提供しているところもある。ただ、出力は多くの場合、品質は劣っている。とは言っても、最近のトレンドがBluetoothヘッドセットに向かっている中では、そこまで悪いとも言えない。Bluetoothはとても便利だが、高品質オーディオに直接アクセスするにはいい方法ではない。

USB-DACがあれば、デジタルの音を受け取ってアナログに変換することができる。このTHX OnyxはUSBポートからサウンドを送信できるすべてのデバイスとの互換性を持っている。デスクトップPCやラップトップ、タブレットやスマートフォンにも対応できる。USB-DACはWindowsとmacOSの両方で動作する。THX Onyxにヘッドセットを接続しても、macOSではマイク機能はサポートされていない。iPhoneユーザーは、専用のLightningプラグとUSB-Aを接続する中間アダプターが必要になる。この2点を除けば、THX Onyxがあらゆる環境で動作することは間違いない。

THX USB-DACは接続後にまずスリープモードになる。そしてマイクロLEDが1つだけ青く点灯する。デバイスのリストには表示されない。アクティブ化するには、ミニジャック出力にヘッドフォンかハイファイアンプを接続する必要がある。接続するとDACがデバイス上で使用中と認識するようになる。そしてTHX Onyx USBアンプとして表示される。

音楽の再生時は、ソースがCDクオリティの場合は3つのマイクロLEDが青く点灯する。ハイレゾPCMの場合はLEDが黄色になる。DSDは赤いLEDで表示され、MQAではピンクになる。この表示標識のおかげで、オーディオのクオリティが視覚的に確認できる。THXのウェブサイトでは、使用するハードウェアや音楽配信サービス、ソフトウェアなど全てのシナリオをカバーする包括的なユーザーガイドをダウンロードできる。またこのサイトでは、THX Onyxが全てのデバイス上でQobuz Studioと互換性を持つことが示されている。今回の試聴ではこのUSB-DACを、全てQobuz アプリ経由でSony Xperia AndroidスマートフォンとベイヤーダイナミックAmiron Homeヘッドフォンに接続した。

試聴

はじめにマカヤ・マクレイヴンの最新アルバム「Deciphering the Message」をプレイした。THX Onyxは広い音場を持ち、オクテットの各楽器はそれぞれがはっきり独立し、深みと奥行きの効果も非常に印象的だ。アナログヘッドフォン出力を使って聴くと、この深みが失くなってしまう。サウンドも生き生きとした感じが少し失われ、よりコンパクトな音場になる。一方で、THX Onyxが効かせる低音は深く、音にはさらに伸びが感じられた。この小型USB-DACの能力によることは間違いなかった。ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団による『モータウン名曲カバー集』収録の「My Girl」を聴いて、それが確かめられた。このDACを用いると全てがスムーズになる。わずかな残響とともに聴こえる微細な情報が、楽器の背後に広がる世界の存在を感じさせてくれる。しかし何にも増して、オーケストラの集団の中でもボーカルの輪郭の明確さが際立っていた。オリジナルのヘッドフォン出力との比較では、THXではミッドレンジがより明確で、指のスナップ音がよりナチュラルに聴こえた。

ジュリエット・アルマネットの『Brûler le Feu』では、アルマネットの声の背後の空間がよりはっきりと伝わってきた。アルマネットの声とピアノの音の分離も良好で、ピアノはより下に、ボーカルはより上に位置している。アッパーミッドレンジのレスポンスは上品で、アグレッシブになることはない。ベーシックなヘッドフォン出力と比較すると、THX Onyxを聴いた時には音楽からベールを1枚取り除いたようにも感じられた。次に聴いたのは、ダリウスのエレクトロ曲「Rise」。丸みがありパーカッシブなベースが曲の背骨となり、弛むことなく推進力を与えている。曲の最初から最後まで、爆発的になる瞬間でもコントロールが効いている。リードボーカルが持つ風通しのよい雰囲気が、耳に伝わってくる。キーボードのギミックが頭の外で鳴るように再現されて、とても満足できる音になっている。


最後に

THXは自社のブランド名での電子機器をほとんど出していないが、Onyx USB-DACによって同社は大成功を引き寄せた。この小型USB-DACが届けてくれるサウンドのクオリティが持つ価値は計り知れないほどだ。全てが周到に考え浮かれていて、文句の付け所が一つもない。テクノロジーの選択も良い方向に向いている。音の分離は明確で、どのようなタイプの音楽も楽しむことができる。この分離の良さは、スマートフォンやタブレット、PCのベーシックなヘッドフォン出力ではとても敵うものではない。高品質のヘッドセットを持っている人は、それでTHX Onyxを体験したら、もう元の出力には戻れなくなるだろう。すぐにお気に入りのヘッドセットと切り離せなくなるはずだ。競合機種と比べて価格は高いかもしれないが、コンパクトさとクオリティの高さは、それを補って余りある。