Testing Ground

ソナス・ファベール Omnia:上品さと優雅さを持つワイヤレスミュージック

ソナス・ファベールが、Omniaを携えてワイヤレスミュージックの世界に戻ってきた。しかも実にスタイリッシュに。このスピーカーの技術的コンセプトは、デザインとスピーカーの配置の両面において、同社オリジナルのオーディオ機器に結実した。この極めてユニークなスピーカーを前に、試聴が待ちきれない思いだ。

※この記事はQobuz海外版からの翻訳です。日本の状況とは異なる場合がありますのでご了承ください。

ソナス・ファベール製のスピーカーは、すぐに見分けが付く。このイタリアのメーカーの製品は、木を配した外観と流れるような仕上げの美しさが目を引く。ソナス・ファベールは、比較的安価なものからハイエンド製品まで、あらゆる予算に合うスピーカーを製造している。しかもそのスピーカーはすべてイタリア製なのだ。

ソナス・ファベールは2016年に、自動で伸縮するサテライトスピーカーを備えた楕円形のワイヤレススピーカー、Sf16を発表した。この製品は、期間限定でカタログに掲載されるにとどまった、限定生産品だった。OmniaはSf16の曲線美を受け継いでいる一方で、これも高額な製品ではあるものの、決して手が届かないものにはなっていない。付け加えて言うと、本機はその外観のデザインと機能の高さから、今年のRed Dot Design Awardsを2部門で受賞している。

製品仕様

● 4ウェイ7スピーカー

●入力端子:HDMI ARC×1、RCAライン/フォノMM 入力×1

●寸法(W×H×D):W650×H30×D280mm

●重量:7.6 kg


Omniaの概要

Omniaには他のソナス・ファベール製品と同様、同社のトレードマークとも言える、木をアクセントとしたデザインが施されている。また本機では、木部にラインを刻んだ上から仕上げが行われている。従来製品ではこれは純粋に装飾目的のものだったが、Omniaのラインには、後述するように機能が持たされている。

ソナス・ファベールOmniaは、上面はフラットで下面には曲線が付けられ、両側をカットしたデザインとなっている。ワイヤレススピーカーによくある、立方体や円筒形とはまるで異なっている。Omniaは頑丈な金属製のベースに載っているので、安定感は抜群だ。幅は65cmとなっているので、これを載せられるサイズの家具の上に設置する必要がある。Omniaは、時間を超越する美しさを備えた機器だ。

本機の前面と側面はスピーカー用サランネットで覆われていて、その奥に7基のスピーカーが隠れている。形式は4ウェイのステレオで、フロントチャンネルは19 mmツイーターと76 mmミッドレンジスピーカーで構成されている。より広い音場を実現するため、側面には44.5mmフルレンジスピーカーが外向きに取り付けられている。低音は、ダウンファイアリング方式の16.5cmアルミコーンのウーファーが担当する。

本機の特徴的な設計とスピーカーの配置は、ソナス・ファベール社が開発したCrescendoと呼ばれるテクノロジーに基づくものである。競合相手となるペア型スピーカーと伍するだけの広い音場を実現するため、この新しいテクノロジーでは、同位相二極と逆相双極のサウンドスキームを組み合わせている。ステレオ、遅延、位相について音響処理を行うことで音場を広くして音圧を分配することで、モノフォニックな360°分散を避けている。

物理的なコネクターには、ネットワーク用のEthernetに、同機とテレビを接続するHDMI ARC、そしてミニDINコネクターがある。同梱のアダプターを使えば、RCAアナログのオーディオ入力も接続でいる。グラウンドターミナルで操作すると、ラインとフォノモード(MM)も使うことができる。本機はWi-FiまたはBluetoothでワイヤレスとなるので、日常使いにはもってこいだ。


Omniaの操作性

ソナス・ファベールは、Sf16ではDTS Play-Fiワイヤレスオーディオ再生プロトコルを採用した。このプロトコルは、ストリーミングサービスを含むモバイルアプリを使って動作する。このアプリは、他のメーカーとシェアされている。一方Omniaには専用のアプリはない。つまり、独自のインストール手順もアクセスする設定もないということだ。Omniaについては、サウンドモードやイコライザーがなくても適切な結果を生むようにした内部DSPを用いるように、ソナス・ファベールによってチューンアップされている。

ソナス・ファベールは、それぞれが独自のアプリを持つAirPlay 2、Chromecast、Roonなどの多くのネットワーク放送プロトコルを統合している。OmniaをWi-Fiに接続する時は、iPhoneではAirPlay、AndroidスマートフォンではGoogle Homeを用いた通常の手順に従えばよい。一度操作がすめば、スピーカーがワイヤレスでの再生に対応してくれる。Ethernetを使う場合は、その他にすることはなく、Omniaが自動で再生プロトコルを見つけてくれる。

スピーカーのトップパネル上に刻まれたラインをもう一度見てみたい。ここにある直線はバックライト付きのSensoタッチスクリーンの一部で、これによってOmniaの主要な機能をコントロールすることができる。一番短い直線は電源のオン/オフ、2つの小さいドットはボリュームコントロールとなっている。一番短いラインの色は、選択している入力を示す。光の色は8種類あるが、すぐに覚えるのも簡単ではないから、まずはこちらを手にしてほしい。

このデバイスは赤外線リモコンで、トップパネル上で操作する機能をこれでも操作することができる。装備されているのは電源のオン/オフ、再生ボタン、ボリュームと入力の選択だ。1つのボタンのスイッチは、タッチスクリーンのバックライトのオン/オフで、明るさは3段階となっている。スピーカー下部の間接照明の調節もできる。

HDMI入力を使えば、Omniaをホームシアター用サウンドバーの代わりにすることも簡単だ。Omniaは高さ13cmと背が高いので、テレビが家具の上に載っている場合は、テレビの下のセンター位置に据えるのに労力を要するかもしれない。テレビを壁面に取り付けている場合は、その下にキャビネットを置いて設置するのがよい。


試聴体験

ビレリ・ラグレーンのアルバム『Solo Suites』を試聴すると、すぐに音に浸ることができた。ギターのサウンドが、リズム、精度、スピード感とも信じられないほどリアルに再現された。Omniaから出てくる音は、まさにフルボディだ。ギターの共鳴も、フレーズの消え際の音も明確に聴くことができる。Omniaと他の20万円以下のワイヤレススピーカーとの音の差は明らかだ。価格が張るのは良い部品を使っているからではあるが、理由はそれだけではない。ソナス・ファベールが提供するハイクオリティなサウンドを実現するためには、スピーカーの数が多いだけでは不十分なのだ。

低域の制御が効いているおかげで、本機は最も有効なレンジで動作してくれる。エラ・メイのR&Bアルバム『Heart on my Sleeve』を試聴すると、低音の表現を単調にするような過剰なコンプレッションは一切感じられなかった。かなり音量を上げても、音楽がインパクトと力強さを持ったまま流れ続ける。そのサウンドは、15 cmウーファーを搭載したブックシェルフ型高級スピーカーに匹敵するほどだ。

次のミエル・ド・モンターニュのエレクトロポップアルバム『Tout Autour de Nous』の試聴では、音場を広げるためにステレオに適用された処理を確認することができた。リバーブがよく再現され、音場はスピーカーの大きさを超えて広がっていた。とはいえ、ペア型のスピーカーで聴かれるような広がりには至っていない。Omniaは従来型のスピーカーと単体のワイヤレススピーカーの中間ぐらいにランク付けされるモデルなので、それを考慮すれば音場もかなりいいところに来ているといえる。

レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団による大編成のオーケストラ曲であるチャイコフスキーの『交響曲第5番ニ短調』も、素晴らしい音で申し分なく再生してくれた。金管楽器と弦楽器セクションのどちらの音も素晴らしく、一切の瑕疵のない再生音を楽しめる。音場の幅や深さを過剰に要求しなければよい話だ。ステレオ効果に限りはあるものの、環境は十分に表現されている。サウンドの本流はスピーカーの枠内にとどまっていて、それと違うレイヤーを聞き取ることは難しい。特に縦方向の広がりが限られているが、これはスピーカーを設置するキャビネットの高さや、リスニングポジションで変わるものだ。耳がスピーカーよりも高い位置にくる形で座ると、リスニング体験にもっとインパクトが加わりそうだ。


最後に

Omniaワイヤレススピーカーは、一目見てソナス・ファベールと分かる、同社らしいデザインが施されている。Omniaは、どんな部屋でも見栄えがする印象的なスピーカーだ。サウンドパフォーマンスもソナス・ファベール製品にふさわしいもので、Omniaの美しいトーンは同機の美点の一つだ。細部を把握して再現するノウハウが分かっている。ただし音場については、他のオール・イン・ワン型ワイヤレススピーカーと比較すればかなり広がりがあるものの、搭載スピーカー数や先進的なシグナルプロセッシングをもってしても音場のディテール表現は難しい。しかしこれは、Omniaに伸ばす手を止めるものにはならない。価格は高めではあるが、その分得られるものも多い。例えばHDMI ARCを含む豊富なコネクター類のおかげで、サウンドバーやハイファイシステムにとって代わるものになり得る。