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ユニバーサル ミュージック : ハイレゾで聴きたい「音の良い2000年以降の洋楽」

世界最大級のカタログを誇る世界3大メジャーレーベルのひとつ「ユニバーサルミュージック」の作品群から、オーディオ的な魅力に溢れる「2000年以降の洋楽」を山本浩司氏の解説と共にご紹介する。


アルバムのセレクトについて

ユニバーサルミュージックの音源限定で「2000年以降の洋楽」からオーディオ評論家の耳でお勧めハイレゾファイルを選んでください、というのが今回のお題。1000タイトルを超える該当リストを送ってもらって(眺めるだけでも一苦労)、ピンときたタイトルを50~60タイトル選び、約 1カ月かけてそれらをひたすら聴き続け、厳選したのが以下の27タイトルだ。アメリカン・ルーツ・ミュージック関連の作品が多くなってしまったが、これは筆者の好みが反映された結果というほかなく、ご容赦を。まあいずれにしても良質なオーディオ機器でハイレゾ・リスニングで楽しむにふさわしい作品ばかり選んでみたので、洋楽好きのオーディオファイルはぜひ参考にしてください。楽しい時間が過ごせることを保証します。


ベテラン男性ヴォーカル

2022年作品。俳優としても活躍してきたテキサス出身のシンガー・ソングライター、ライル・ラヴェットの新作は、その内容の濃さとともに音の良さでも注目すべき作品だ。ビッグバンドジャズ・スタイルのジャンプ・ナンバーから長閑なカントリーワルツまで、良質なアメリカーナをたっぷりと楽しめる。的確な音像定位、スムースな音の広がり、ライルの艶のあるヴォーカルなど聴きどころ満載。ぜひご自慢のスピーカーでお聴きあれ。


2021年作品。1982年の名作をそのまま同じ曲順で演奏したライヴ作。オーバーダビングを繰り返し、スタジオの密室作業で仕上げた超ハイクォリティな作品を、ほぼ40年後に聴衆を前にバンドで演奏する面白さ。もちろんオーバーダブや音の差し替え作業が施されていると思うが、現スティーリー・ダン・バンドの腕利きたちのプレイは生気に満ちていて、とても楽しい。コーラスの生々しさなどもライヴならではの醍醐味だ。


2002年作品。アコースティックな響きのルーツ色の強い楽曲が集められているが、プロデューサーにレディオヘッド等の仕事で注目されたナイジェル・ゴドリッジを迎えてポスト・ロック的な音響処理が随所に施されている。とくにストリングスの広がりが出色で、極彩色のステレオイメージが得られる。20年後の現在聴いてもその音像・音場表現はまったく古びていない。ハイレゾ・リスニングでつぶやくように歌うベックの声の魅力にも気づかされることだろう。

2010年作品。英国ロック界のレジェンドの名曲カバーで構成された異色のアルバム。レディオヘッドやニール・ヤング、ランディ・ニューマン、デヴィッド・ボウイらが書いた名曲を深々と響く味わい深い声でその魅力に肉薄している。録音・ミックスを手がけたのは名手チャド・ブレイク。ワイドレンジでスペイシャス、格調の高い重厚なサウンドで、彫りの深い音楽を彫琢している。


2016年作品。当時御年74才のシンガー・ソングライター、ポール・サイモンが放った超プログレシッブなアルバム。S&G 時代からの盟友であるロイ・ハリーに録音・ミックスを委ね、様々なリズムの実験成果を 1枚のアルバムにまとめ上げている。キャッチーなわかりやすい楽曲は少ないが、良質なオーディオ機器を用いてハイレゾファイルに耳を傾けると、細部にまで意を払った精密な音づくりの妙味を満喫できる。


ベテラン女性ヴォーカル

2008年作品。女性ヴォーカル好きのみならず、すべてのオーディオファイルにお聴きいただきたいすばらしいアルバム。プロデュースはフィル・ラモーン、録音・ミックスはアル・シュミット、マスタリングはダグ・サックスで、手練のワザに圧倒されます。アナログ録音によるウォームでまろやかなヴォーカルとスタジオのエアーとスペースをリアルに実感させるサウンドステージの実在感。現在もなおオーディオ機器のチェックに使っています。


2002年作品。発売20周年記念の最新リマスターのハイレゾ・ヴァージョンが話題のノラ・ジョーンズのデビュー作。新生ブルーノート・レーベルのイメージを刷新したメモリアルな作品でもある。多くのユーザーがすでに耳にしているであろう名盤だが、最新リマスター版はいっそう音が磨かれ、音楽のディティールやスモーキーなヴォーカルのニュアンスがより精緻に表現される。聴き飽きしないすばらしいアルバムだ。


2012年作品。ピアノだけをバックに歌う最新作もすばらしかったメロディ・ガルドーの3nd アルバム。アクースティックギターとストリングスをフィーチャーし、ボサノヴァや、カリプソ、欧州ジャズのテイストを大胆に導入した見事なヴォーカル・アルバムだ。録音・ミックスも極上で、ささやくように歌う彼女の歌声がリアルに捉えられている。この涼しげなサウンドで酷暑を乗り切りたい。


2017年作品。グラミー賞女性最多獲得シンガー&フィドル奏者の18年ぶりのソロ作。カントリーやブルーグラス等アメリカーナ・クラシック・トリビュート作品だが、フィドルを大きくフィーチャーしたような土くさいトラックは少なく、ひじょうに洗練されたポップなサウンドをバックに、清涼感に満ちたアリソンの伸びやかなヴォーカルが楽しめる。ナチュラルな質感の好録音アルバムでもある。


2020年作品。プロデューサーに名ドラマーとして知られるスティーヴ・ジョーダンを迎え、ニーナ・シモンやビリー・ホリディなど黒人女性シンガーの歌をベテラン・ソウル・シンガーのベティ・ラヴェットが歌う聴き応え満点のアルバム。ひじょうにタイトでシュアーなリズム・セクションに支えられてた彼女の真摯な歌声が見事に捉えられている。本作の前に出たボブ・ディラン曲集の”Things Have Changed” もすばらしい作品だ。


21世紀ならではの新しい音

2021年作品。マイク・ミロシュ率いるソウル・ユニットの最新作。アカペラの美しい女声コーラスで幕を開け、コンピュータープログラミングのデジタル・ビートに流麗なストリングスが加わり、最高の聴き心地を約束する名盤だ。中性的な魅力を振りまくミロシュのヴォーカルが生々しく捉えられており、しばし桃源郷へとリスナーを導く。デジタル・ビートの音色もとてもまろやかで驚くほどワイドレンジだ。


2016年作品。ジェイムズ・ブレイクの3nd アルバムで、デビュー作以来の密室的で静謐なムードが全編を覆っている。コンピュータープログラミングされた精緻なバックトラックに、彼の弾くピアノと深みのあるヴォーカルが被せられ、唯一無二の音楽世界が展開されていく。その夢幻的な音像表現は、良質なオーディオ・システム、または良質なヘッドフォンで聴いてこそ際立つだろう。真摯に向き合いたい傑作だ。


21世紀のブラックミュージック

2022年作品。 1作めから10年目となるシリーズ第3作。新世代ジャズの中心人物ロバート・グラスパーがヒップホップやR&B のメジャー・アーティストを迎えて仕上げた今を息づくブラック・ミュージック。音の質感はなめらかで艶やか、メロウなムードで統一されている。レイラ・ハサウェイを迎えて80年代のティアーズ・フォー・フィアーズの名曲をさらりと料理したり。ベテラン音楽ファンにもぜひお聴きいただきたい。


2014年作品。ヒップホップ・ソウルの女王と称されるメアリーJ.ブライジがロンドンに出向き当地のミュージシャンたちとのセッションを記録したアルバム。デジタル・ビートと人力リズムが入り交じった楽曲構成だが、女王は貫祿の歌いっぷりでイマを息づくソウル・ミュージックの魅力を浮き彫りにしていく。デジタル・ビートもハイレゾで聴くとまろやかな質感で、聴き心地は極上だ。


2009年作品。ソウル、ファンク、レゲエ、ブルーズなどのブラックミュージックの伝統に根ざした骨太な音楽がリアルな音像で捉えられており、ハイレゾ・リスニングでその魅力がいっそう明らかになる。ベンのヴォーカルも生々しいが、このアルバムで聴くべきはタイトなバンド・サウンド。ザ・バンドを思わせるようなコクのある味わい深い音を聴かせる。ベンのギターの音色も美しい。


2021年作品。昨年もっとも注目されたアルバムかもしれない。本作も”Diamond on the inside” 同様、ブラックミュージックの伝統に根ざした楽曲で埋めつくされている。ノリのよいダンス・チューンがほとんどで、ジョンのヴォーカルはナチュラルに録られているが、バックトラックの音色や意匠はきわめて現代的。楽器の音は様々に加工され、いまだ聴いたことのない新しい感触のサウンドでまとめられている。


2022年作品。ベテランブルーズ・ギタリスト&ヴォーカリストのケブモの最新作は、共同プロデューサーにヴィンス・ギルを迎えて、タイトル通りの希望に満ちた心地よいサウンドで満たされている。各楽器とヴォーカルを生々しく捉えた録音・ミックスの良さも出色で、リラックスしてその味わい深いサウンドを楽しむことができる。時折はさみ込まれるブルージーなギター・ソロも見事の一言だ。


新世代女性ヴォーカル

2021年作品。「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の主題歌を含む2nd アルバム。兄フィニアスの自宅で録音されたこの作品、デビューアルバムに比べて落ち着いたサウンドで、低音の強調も控えめ。しかし、その音色は研ぎ澄まされており、ハイレゾ・リスニングに相応しい。ささやくようにつぶやくように歌われる声の質感の高さも特筆モノ。工芸品のように丁寧に仕上げられたサウンドプロダクションをじっくりと賞味したい。


2021年作品。デビューシングルに引き続いて発表され、全米で大ヒット中の注目作。ティーンネージャーの恋愛模様と激情を歌った彼女の歌を聴くと、人間の喜怒哀楽は 100年経っても変わらないのだなと思う。コンピュータ-プログラミングによるバックトラックに支えられた、彼女の愁いを帯びたヴォーカルがすばらしく、大人リスナーの胸をも打つ。イヤホンだけではなく、ぜひ良質なスピーカーでお聴きいただきたい。


2006年作品。エイミー・ワインハウスの2nd アルバムにして遺作。全英第1位、全米第2位を記録した大ヒット作で、マーク・ロンソンがプロデュースしたシンプルでタイトなバッキングを得て、オリジナルのブルーズやR&B 、ジャズをエイミーは気持よさそうに歌っている。ハイレゾで聴いて改めて実感させられるのが、彼女の歌の巧さ。リズム感が抜群で、肩の力の抜けた唱法で歌の核心に近づいていくさまをじっくりと楽しんでほしい。


21世紀のアメリカーナ

2018年作品。サラ・ワトキンス、サラ・ジャローズ、イーファ・オドノヴァンという女性トリオで歌われるアメリカーナ。それぞれが得意とするギター、フィドル、マンドリン、バンジョー、ピアノ等をフィーチャー、3人の美しいハーモニーが楽しめる。女性版パンチ・ブラザーズ、クロスビー、スティルス&ナッシュといった趣。ハイレゾ・リスニングに相応しい丁寧な録音・ミックスだ。


2018年作品。グラミー賞を獲得しているテキサス出身の女性カントリーシンガーの4th アルバム。カントリーといってもサウンド・デザインは洗練されていて、リズム・アレンジは斬新。最先端のポップ・アルバムとして楽しめる。なんといっても最大の聴きどころは、ケイシーの清涼感に満ちた澄んだ歌声。良質なスピーカーを用いて、ハイレゾ・リスニングでその魅力を満喫していただきたい。


2020年作品。ノラ・ジョーンズがサーシャ・ドブソンとキャサリン・ポッパーと結成したガールズ・バンドの2nd アルバム。エレクトリックギター、ベース、ドラムズの3ピース構成で、シンプルなヘタウマ・カントリーロックを披露する。エアリーなサウンドステージが眼前に展開され、ハイレゾ・リスニングの醍醐味が満喫できる。その確信犯的音づくりの妙味に唸らされてしまう逸品だ。


ロックの王道

2016年作品。11人編成の大所帯ロック・バンドだが、最大の聴きどころはデレク・トラックスのスライドギターと夫人であるスーザン・テデスキのブルージーなヴォーカル。しかしながら、この作品では他のメンバーも随所でフィーチャーされており、70年代スワンプ・ロックの香りを濃厚に漂わせながら、よりタイトに引き締まったご機嫌なサウンドを聴かせる。ハイレゾ・リスニングでそのバンド・サウンドの妙味を味わい尽くしたい。


2020年作品。齢八十九の今なお歌い続けるウィリー・ネルソンの子息ルーカスを中心としたバンドのスタジオ・セッションを生々しく捉えた作品。上手く再生すれば、眼前にバンドメンバーがずらりと並んだサウンドステージが実現できる。これぞハイレゾ・リスニングの醍醐味。アメリカン・ロックの伝統を正しく受け継ぐネルソンたちが紡ぐサウンドもとても味わい深い。


2015年作品。ストリート・ギグが似合うブリティッシュ・トラッドの雰囲気が横溢するフォーク・バンドだった彼らだが、このアルバムでは80年代のU2を彷彿させるスタジアム仕様のスケールの大きなバンド・サウンドを聴かせる。ステレオフォニックな音の広がりには乏しいが、音像は厚く、マッシヴな力感を強く印象づける仕上がり。充実した中低域の魅力を発揮するスピーカーでぜひぜ聴いてほしい。

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