Interviews (JP)

ジャズの魅力を届ける新感覚キャラクタープロジェクト「swing,sing」の世界とは?

熱狂の非日常と熱い音楽ではなく、穏やかな日常とそこに寄り添う音楽。そんなこれまでにはない雰囲気のプロジェクトが「swing,sing」だ。キャラクターソングは何と「ジャズ」。その世界観や音楽はどのように生み出されたのか。原案・原作の伊澄アキさん、音楽プロデュースの早川博隆さん、メインキャラクター八乙女菫として楽曲を歌う声優の二ノ宮ゆいさんからお話を聞かせていただいた。またインタビュー中にはAstell&Kernのハイレゾ対応プレイヤーとイヤホンによる「swing,sing」ハイレゾ音源の試聴も実施。それぞれの印象を伺った。

写真:村上宗一郎

提供:株式会社アユート

swing,singらしさ凝縮!軽井沢での1st LIVE

──2023年4月1日に開催された「swing,sing 1st LIVE “It don’t mean a swing,sing!”」は、場所は軽井沢、演奏はジャズの生バンド、会場は一流コンサートホールと、他ではありないことだらけのライブイベントでした。

伊澄:まずは場所ですよね。物語の舞台である軽井沢の実際の雰囲気や美味しいもの、軽井沢までの車や電車の中でのワクワク、すべてひっくるめて「swing,sing」として体感していただきたかったんです。

──演者である二ノ宮さんにとっても新鮮だったのでは?

二ノ宮:軽井沢には家族旅行で何回も来ていて、元々好きな場所なんです。ですから物語の舞台が軽井沢と知ったときも嬉しかったですし、ライブが決まったときも「お仕事で軽井沢に行ける!」という喜びもあったりして(笑)。いつかは聖地の軽井沢でライブをとは思っていたのですが、「swing,sing」スタートから1年ほどで実現したのも嬉しい驚きでした。

──ジャズ要素たっぷりな楽曲を生バンドの演奏で歌うのも、このプロジェクトならではの体験ですよね。

二ノ宮:アニソンやキャラソンでも、ここまで生の楽器の演奏にこだわったものはなかなかないですからね。しかもそれをライブで生バンドで披露するなんて、本当に滅多にない機会だと思います。

早川:歌いにくかったりはした?

二ノ宮:それはぜんぜんなかったです。わたしは吹奏楽部にいたので、生の楽器やコンサートホールの響きに慣れていたのがよかったのかもしれませんね。

──会場は、五角形構造や長野県産木材による美しい響きで知られる軽井沢大賀ホールでした。

二ノ宮:声優になったその先に、コンサートホールで生バンドの演奏でジャズのスタンダードを歌ってる未来があるなんて、思いもしませんでした(笑)。アニメや声優のファンのみなさんにとっても新鮮な体験だったはずです。こうやってジャズというものをわたしたちに触れやすい形で届けてくれる、それが「swing,sing」なんだと思います。


熱く激しい盛り上がりとは別の共感をジャズなら生み出せる

──コンテンツの音楽要素としてジャズを選んだことは「swing,sing」の核心になるんですよね。

伊澄:僕はこれの前にも音楽を中心に置いたコンテンツをやっていたんですが、そちらはライブでステージと客席が一体となって盛り上がる、その熱気を前提としたものでした。ですがコロナ禍でその前提が崩れて、自分としては不完全燃焼なまま終えることになってしまって。

──ライブの延期や中止が相次ぎ、その後もつい最近まで声出し禁止の状況でしたからね。

伊澄:それで次の形を模索していたとき、まず音楽面で浮かんだのがジャズでした。声を上げて盛り上がるのとは別の形での一体感や共感を表現できる、それをできるであろう音楽ジャンルとしてジャズが浮かんだんです。中学の吹奏楽部と高校のジャズ研が僕の音楽的な原点だったこともあって。

──コロナ禍という状況から生まれた発想だったわけですね。

伊澄:軽井沢という舞台設定もそうです。状況が多少落ち着いてから、旅行支援政策があったじゃないですか。あれで僕も各地に旅行に行って、それで癒される場面もあったんです。それをみなさんにも感じてほしくて、舞台を軽井沢にして、先日のライブで実現できたように、その軽井沢に来てもらえるようなコンテンツにしようという発想になりました。それに、アニメやゲームの分野って激しいものが多いので、あえて逆にこういう雰囲気のコンテンツもありだろうとは以前から考えていたんです。

──異世界ものにも冒険バトルだけじゃなくスローライフ作品もあるように、音楽ものでゆったり系の作品もありなはずと。

伊澄:とはいえ、ジャズそのものにはとっつきにくさを感じる人もいると思うんです。でも椎名林檎さんの「獣ゆく細道」など、ジャズの文脈をポップスに落とし込んだサウンドの曲は広く受け入れられています。そういったジャズから派生したポップスまで含めて提示していけば、多くの人に親しんでもらえるコンテンツにできるだろうという見通しもありました。

──音楽面のプロデューサーを任された、早川さんにはどのタイミングで声がかかったのでしょう?

早川:なんかふわっと相談されました(笑)。でもその時点でジャズというのは決まっていましたね。

伊澄:先ほど話に出したコンテンツでも早川さんとはご一緒させていただいていて。そのときからの信頼感もあって、今回もコンセプトが固まったところで早川さんに相談しました。

早川:ジャズに関していえば、僕はそれに特化した人間ではないんです。でもだからこそ、このコンテンツの中でのジャズとポップスの融合のさせ方やそのさじ加減を見る立場としてはよかったんでしょうね。

伊澄:このコンテンツのファンになってくれるであろう層の方々が親しんできたポップスに、その方々にとって新鮮なものであるジャズの要素をうまく落とし込んで届けたいというのが僕の狙いなわけです。ポップスを得意としつつジャズにも対応できる、早川さんのオールマイティーさはそこにぴったりですよ。

歌も演奏もライブでさらに炸裂!「Harmony」

──そしてウェブコミックでのストーリー展開と音楽のリリースがスタート。1stミニアルバム「Kind of Harmony」として最初にリリースされた6曲は、カフェ・プリムローズに集まる主要キャラクター5人の全体曲と各自のソロ曲です。

伊澄:作品の象徴となるテーマソングと各キャラクターたちのソロ曲は欠かせませんからね。

──ソロ曲ではキャラクターの担当楽器も活躍。そして各曲ごとにジャズの様々なスタイルが提示されています。

伊澄:古典的なジャズ、ジャズの親戚みたいなスタイル、ジャズの影響を受けたポップス。その代表をまず一通り紹介する意図も込めたのがこの6曲です。

──二ノ宮さん演じる八乙女菫さんの歌唱楽曲をピックアップしていくと、まず全体曲「Harmony」はこれぞビッグバンドジャズという雰囲気。

伊澄:元ネタ曲はベニー・グッドマン楽団のカバーで有名な「Sing, Sing, Sing」です。「ジャズといえば?」でこの曲を思い浮かべる人は多いと思うので、最初はやはりこれでしょうと。あと「swing,sing」の物語には、女子高生ビッグバンドジャズ青春映画「スウィングガールズ」との共通項もあります。あの映画でも「Sing, Sing, Sing」は印象的に使われていたので、そこへのオマージュの意味もあったりします。

──ネタ元を明かしていくスタイルですね。

伊澄:ジャズはオマージュ文化、カバーやフレーズの引用で発展してきたものですから(笑)。そんな意図で早川さんに「Sing, Sing, Sing」をリファレンスにした曲をとお願いしました。そうしたら中盤から各楽器のソロ回しが延々続くという、キャラクターソングとしては画期的なものに(笑)。

早川:腕の立つプレイヤーを集めるんですから彼らの演奏力を生かさないのはもったいない!おかげで1stLIVEでの演奏も盛り上がりました。アンコールではジャズのスタンダード「It don’t mean a thing」「Sing, Sing, Sing」からの「Harmony」7人バージョンの流れだったんです。その「Sing, Sing, Sing」と「Harmony」はリズムパターンが共通なので、曲間なしでそのリズムのまま流れるように「Harmony」につながって。

──気持ちよさそう!ステージ上でのご気分はいかがでしたか?

二ノ宮:いやもうめちゃめちゃすごかったですよ!ずっと楽しすぎてもうあんまり記憶がないんですけど(笑)。音楽やってる!っていう気持ちになれた瞬間でした。

早川:演奏陣も気合やばかったよね。

二ノ宮:ライブは1曲目も5人バージョンの「Harmony」で、そちらの時点でも開幕だ!っていう勢いがあってすごかったんですけど、アンコールではもっとはっちゃけてて。「Sing, Sing, Sing」からそうだったから、「Harmony」でわたしたちが歌い出すときにはもうバンドのみなさんが熱々だったんです。だから1曲目と同じように歌ったら演奏に負けちゃう!と思って、もっとパワフルな歌い方に変えたりして、もう「うわーッ!」って感じでした(笑)。同じ曲だけど、最初と最後では演奏も歌も別物なんです。生演奏だからこそ、ジャズだからこそですよね。

早川:あとこのライブ、参加ミュージシャンの大半がレコーディングで弾いてもらった人のままなんです。おかげで曲の原形への理解も深くて、ですからはっちゃけるところははっちゃけつつ、崩すべきではないところの再現性も素晴らしい。

伊澄:そこは半田さんが参加できたのも大きいよね。

──レコーディングメンバーとしてはピアノとキーボードとバイオリンで、そして作曲や編曲にも参加している半田彬倫(はんだあきのり)さんですね。経歴に「何歳で優勝」「何歳でグランプリ」みたいなのが並んでいて、マンガの天才キャラかよ!と驚かされました。

早川:「swing,sing」楽曲に本格的なジャズの要素を注ぎ込んでくれているのが彼です。彼自身もジャズが専門というわけではないらしいんですけど、ジャズにも深い造詣を持っています。

伊澄:その半田さんのライブ参加の可否が、スケジュール面でギリギリまで確定できなかったんです。だったら普通は他の人にお願いします。でも「swing,sing」楽曲のライブでの再現を考えると、ギリギリでダメになるリスクを背負ってでも半田さんにお願いしたかった。

二ノ宮:わたしたち声優が参加しているコンテンツのライブの多くは、声優がステージのフロントに立ってパフォーマンスをすることでお客さんを満足させるものだと思うんです。でも「swing,sing」のライブは、半田さんが必要だという話になるように、声優だけで成立するものではないんですよね。むしろ音楽だけでも成立するところに歌手として参加させてもらうみたいな。

早川:そんなことないよ!二ノ宮さんの歌もあって成立してるんだよ!

伊澄:二ノ宮さんの成長速度もすごいですよ。ジャズ独特のちょっと引っかけるようなリズムで歌うのとかって、彼女はこれまで経験してこなかったものなわけじゃないですか。それもこのライブでは本当に仕上げっていて。ありがとうございます!って感じです。


「夢の中へ」で示される、swing,singならではのキャラソン

──一転して、「夢の中へ」はジャズのしっとりとした女性ボーカルの魅力が際立つ曲です。

伊澄:これはリファレンス曲なしで、「ピアノジャズでゆったりとした曲」というおおまかなイメージで早川さんにお願いしました。

早川:そのサウンドを思い浮かべながらそれに合うメロディを考え続けていて、表参道を歩いているときにあのメロディが降りてきました。メロディだけだとシャンソンっぽいとも思ったんですけど、半田君のアレンジでジャズにしてもらおうと。

伊澄:シャンソンの名曲がジャズのスタンダードになっていたりもするし、シャンソンとジャズは兄弟親戚みたいなものですよ。

早川:メロディが浮かぶまで僕も苦労したけど、歌うのも大変だったでしょ?

二ノ宮:「Harmony」はアニソンとしてもよくあるテンポ感のジャズだったので、歌いにくさはなかったんです。でも「次はソロ曲です」って渡されたこの曲を聴いたら「テンポ、おっそ」みたいな(笑)。アニソンでこんなテンポの遅い曲は歌ったことがなくて。

──お二人からはどのようなディレクションを?

伊澄:この作品での「キャラクターソング」は、「キャラクターをイメージした楽曲」ではなく、「キャラクターが物語の世界の中で実際に歌う曲」という位置付けです。今は物語の進行よりも楽曲のリリースが先行しているので、この曲は「物語の今後どこかのタイミングで八乙女菫が歌う曲」を切り取って先に出しているものになります。

──その違いでどう歌ってほしいかも変わってくると。

伊澄:例えば、台詞を演じるときの声に寄せて歌う必要はなくなります。キャラクターのイメージを表現する曲だったら、いかにもそのキャラクターらしい声で歌ってほしいですよね。でも「キャラクターが物語の世界の中で実際に歌う曲」なら話は別です。現実の人間だって、しゃべるときと歌うときで声が違うことはあります。だから劇中のキャラクターもそれでいいんですよ。

──ところで、ここまでの物語の展開を見るに、菫さん自身がこの「夢の中へ」を歌うときって、物語が大きく展開する瞬間になりますよね?

伊澄:そこはその時が来るまで、曲を聴きながら想像を膨らませておいていただければと……

──というように「swing,sing」は、物語の展開よりも楽曲が先に進んでいます。さらにその物語はコミックの形なので、声優さんがキャラクターを演じる機会はまだ多くはありません。二ノ宮さんからして、その状況でキャラクターソングを歌う難しさはありますか?

二ノ宮:彼女のパーソナルデータや過去の設定は用意されていますし、それを読み込むと実は、自分との共通点も多かったりするんです。彼女は横浜の都会で生まれて、小さい頃から音楽の世界で、それこそ半田さんのようにたくさんの賞をもらっていて。でもそれが苦しくなって疲れてしまって、そういう音楽の世界からも都会からも離れて、軽井沢に、カフェ・プリムローズにやってきた。そこで出会った仲間たち先輩たちとの触れ合いで、音楽を楽しむ心を取り戻していく、という。

──「swing,sing」のストーリー紹介としても完璧!

二ノ宮:そのストーリーのところどころに、わたしに重なる部分があるんです。わたしも吹奏楽部で音楽に触れていて、でも退部しちゃったんですよね。色々あってそれこそ疲れてしまって。でもフルートは続けていたんです。それで家族で軽井沢に来たときに、自然に囲まれた中でフルートを吹いてみたことがあって。そのとき、こういう心休まる環境で楽器を鳴らしてみて改めて、音楽をできるって幸せなことだな、わたし楽器が好きなんだなって思えて。そういう経験があるので、その気持ちの部分部分を彼女とリンクさせて歌っています。

『Harmony』swing,sing 八乙女菫 (CV:二ノ宮ゆい),百瀬百々 (CV:廣瀬千夏),朝比奈日葵 (CV:田口華有),天羽友梨 (CV:大橋彩香),風祭瑠璃 (CV:田所あずさ)

『夢の中へ』swing,sing 八乙女菫 (CV:二ノ宮ゆい)

『まどろみ』swing,sing 八乙女菫 (CV:二ノ宮ゆい),朝比奈日葵 (CV:田口華有)

『旅人』swing,sing 八乙女菫 (CV:二ノ宮ゆい),百瀬百々 (CV:廣瀬千夏)

『君のメロディ』swing,sing 八乙女菫 (CV:二ノ宮ゆい),百瀬百々 (CV:廣瀬千夏), 朝比奈日葵(CV:田口華有)


難曲!「まどろみ」「旅人」「君のメロディ」

──ジャズの典型を提示した「Kind of Harmony」の6曲。その次にリリースされた3曲は、個人的にも、その衝撃でこのプロジェクトに改めて注目させられるようなものでした。

二ノ宮:歌う側としても衝撃的でしたよ!難易度が!

伊澄:「Kind of Harmony」に対しては、ジャズが元から好きな方からの「これはジャズじゃなくてジャズ風のポップス」みたいな声もありました。そう言われるのはわかった上で、ジャズを知らない方に向けた入口としてのわかりやすさをあの段階では重視したわけですが……入門編は終えたので次からは入口のその先、ディープなジャズのエッセンスをぶち込んでいきますよ、と。

──一般からの「ジャズって難しそう」イメージの源かもしれない、モダンジャズ以降の技法や技巧も感じられる楽曲です。

早川:「まどろみ」のリファレンスとして提示されたのは上原ひろみさんの「If...」という曲でした。とはいえその雰囲気を意識しつつも相当変えているので、それっぽさがわかりやすく残っているのはアウトロのインストくらいかな。

伊澄:あのアウトロはそれこそコンテンポラリージャズをお好きな方にも楽しんでもらえると思います。

早川:ただ、こちらとしては、歌うのがより難しいのは「旅人」だと思っていたんですよ。3拍子4拍子5拍子が移り変わっていく変拍子ですし。比べたら「まどろみ」は難しくないだろうって。

二ノ宮:いやいやいや!デュエットで掛け合いがめちゃくちゃ複雑で掛け合いではなく二人で歌う部分もユニゾンはほとんどなくてどちらかはハモリだし主メロ担当とハモリ担当もころころ入れ替わるし!何だこれ!?って思いながらレコーディングしたんです。それを「ライブでもやる」って言われたんですよ!

伊澄:楽器のソロパートが明けてボーカルが入るところの、その入り際のタイミングもすごく取りにくかったりして。

二ノ宮:この曲はそういう部分が多くて。そもそも曲の頭から、わたしのブレスを合図に楽器のみなさんが入ってくるという始まり方です。ライブではそこも間奏明けも本当に、わたしたちの歌と演奏のみなさんで「呼吸を合わせて」なんですよ。

伊澄:今のポップスのライブですと、イヤーモニターにクリックでリズムを流して、歌も演奏もそれに合わせて、同期で流す音も追加されるのが一般的ですよね。でも「swing,sing」のライブは早川さんが「ジャズだからクリックなし!ぜんぶ生演奏で」!と。たしかにそれでこそジャズの音になるんですよね。そういった歌と演奏のコミュニケーションなしには成立しない曲という意味では、たしかに「まどろみ」がいちばんそうなのかもしれない。

二ノ宮:「まどろみ」「旅人」「君のメロディ」は、メインキャラクターの3人がそれぞれ2人2人3人の組み合わせで歌う曲なんですけど、ライブでは本当に、お互いに目を合わせて歌う瞬間がすごく多いんです。

伊澄:3人の関係性が深まっていく様子を音楽で表現する狙いもあった3曲なので、それが自然とステージにも表れたのは嬉しいですね。

──キャスト同士がステージで目を合わせるのって、一般にはステージングとして見せるものだったりするじゃないですか。でもこの場合は……

二ノ宮:目と目を合わせて歌と歌、歌と演奏を合わせていくしかないんです!吹奏楽をやっていたときの、あの緊張感を思い出すようなライブでした。

swing,singらしさはレコーディングから

──レコーディングも、そのジャズらしいライブ感を生かす形で行なっているのですか?

早川:できる限りそうしています。たとえばビッグバンド的なサウンドの「Harmony」だと、当時の状況やスケジュールもあって全員集合は無理でしたが、できるだけ多くのプレイヤーが集まれるよう調整して、ベーシックな部分は同時演奏で一発録音です、曲の土台はそれで出来上がっていて、後から重ねて録音する方もそこに完璧に合わせてくれています。

──フレーズやニュアンスも、譜面で指定するのではなく、プレイヤーの方々に任せる感じでしょうか?

早川:ギターと鍵盤はその割合が特に大きいです。コード進行だけ記したコード譜と「こういう雰囲気」「〇〇スタイルの演奏」のようにおおまかな要望だけお伝えして、あとはお任せみたいな。それに応えてくれる、センスと技量のある演奏家さんたちですし。作曲者として音楽プロデューサーとして、意図やこだわりを特に込めている部分はもっと具体的に監修していますけど。あと例外的に譜面でしっかり決めてあるのは、「Harmony」のブラスアレンジなど、アンサンブルでバシッと合わせていくような部分ですね。

──早川さんはボーカルのレコーディングエンジニアとしてもクレジットがありますね。

早川:「swing,sing」の歌はいま話しているこの部屋の隣、弊社のボーカルレコーディング用スタジオで録音しているんです。見てみますか?

──ぜひ……ビンテージも含めた貴重なマイクが豊富にスタンバイされていますね。こどのマイクを使うかの選び方というのは?

早川:自分はまず曲調に合わせて選びます。ロックにはビンテージのNeumann U67、洋楽的なサウンドにはビンテージのTelefunke ELA M 251、EDMなどにパキッとした声を合わせたいならSony C-800Gといった具合に。

──「swing,sing」の楽曲、二ノ宮さんの声に合わせてセレクトしたマイクは何でしたか?

早川:「swing,sing」では、歌の細やかな表現まで特にしっかり拾ってくれる現代的な真空管マイク、Brauner VM1を使うことが多いです。キャストさんの声質に合わせて他のマイクを試すこともありますが、二ノ宮さんは彼女の声にもVM1がハマるので、どの曲でもVM1だったと記憶しています。あと「swing,sing」にはZ-A(ゼッダ)というユニットもありまして、そちらは違うサウンドなのでボーカルマイクも変えていて、C-800Gですね。

Astell&KernのDAPで聴くswing,sing

──こだわりが詰め込まれた「swing,sing」楽曲は、より高音質なハイレゾ配信でもリリースされています。今回はAstell&Kernのハイレゾ対応プレイヤーとイヤホンでそれを聴いてみての印象も伺えればと。まずは二ノ宮さんにイヤホン「AK ZERO2」で、スタンダードクラスDAP「A&norma SR35」とアナログアンプ「AK PA10」のコンビと、ハイエンドDAP「A&ultima SP3000」の聴き比べをしていただきまして……

二ノ宮:うわ、すっご……

──驚きの声の低さがリアルですね(笑)。聴き終えていかがでしたか?

二ノ宮:最初の組み合わせだと、ドラムなどが空間の下の方の低いところで豊かに響いてくれますね。それが下にあって、ボーカルは耳の上のこのあたりで鳴っているし、もっと上の方で響く楽器もあるし。耳の中だけで鳴っているのに、下から上までの広い空間のイメージを感じられました。次に聴いた方は、全体の聞こえ方がフラットでありつつ、普段は聞こえないような弦の細かい音までぜんぶをしっかり聴き取れるのに驚きました。ウッドベースの低い音って聞こえにくかったりするじゃないですか?でもこのDAPで聴くと、空間の中での距離感としては遠めのところから聞こえてくるのに、でもくっきりしてるんです。

──二ノ宮さんの好みにより合うのはどちらでしょう?

二ノ宮:好みでいいなら最初の方ですね。ライブ感が強くて、本当にコンサートホールいるみたいな気持ちになれますね。

──つい先日にもコンサートホールを体感した人からの言葉なので説得力が違う!伊澄さんはどうでしたか?

伊澄:まずこのイヤホンAK ZERO2が、「swing,sing」の生音で作り込んだジャズに合っている気がしますね。アコースティック楽器の生の音って、演奏に付随してけっこう鋭い音も入ってたりするじゃないですか。弦楽器だったら指先が弦を擦る音が強く出る瞬間とか。

──歌でいうブレスみたいなものですね。

伊澄:それがだめということではなく、そういう音もあってこそ魅力的なのが生の演奏なので、だからこそ、そういう音も心地よく聞こえてほしいんですよ。その点このイヤホンは音のタッチがややウェッティで、生音の尖った成分もいい感じに聴かせてくれますね。あとこのイヤホンとDAPのどちらも、帯域バランスの面でも「swing,sing」にぴったりかもしれません。

──低域、中域、高域の出し方ですね。

伊澄:ローも十分出ていますけどそこを強調する感じではなく、ミドルの綺麗さがいちばん印象的です。だからアコースティック楽器と女性ボーカル、つまり「swing,sing」に合うんです。

──なるほど。早川さんはいかがでしょう?

早川:いや最高ですね。音の速さがあって、プレイヤーがタッチの瞬間に込めたニュアンスがそのままスッと繊細に届いてきます。自分が普段から使っているイヤホンやヘッドホンと組み合わせてもその印象は変わりません。ということはそこはイヤホンやヘッドホンの側ではなく、Astell&KernのDAPの音作りのおかげなのでしょうね。

──伊澄さんが触れていた帯域の部分については?

早川:たしかに、50Hz以下のサブベース云々とかよりも、ミドルより上の帯域のクリアさが印象的です。それがいいんですよ。ローをガンガン出してくれるメーカーは他にいくらでもありますから。

伊澄:「swing,sing」のファンの方ってやっぱり、声優さんを中心としたコンテンツ全般を好きだと思うんですよ。歌の帯域であるミドルが綺麗なAstell&Kernさんのオーディオはそこにもフィットすると思います。そしてこういう音質で聴いてもらえたら、声優さんの歌を聴くことに集中していた方も、その周りの演奏の素晴らしさの方にも自然と耳が向くのではないでしょうか。そこは「swing,sing」の狙い、このコンテンツをきっかけにジャズの楽しさも知ってほしいというのとも重なりますね。


swing,singが目指すこれから

──そのジャズの楽しさを提示していく、今後の活動や展開としては?

二ノ宮:「swing,sing」では、声優として台詞で演技をする機会はまだ少ないです。だからこそ、音楽を通してキャラクター像を膨らましていける、こういうコンテンツもあるんだ!という驚きや楽しさ、やりがいを感じています。先日のライブで得た、自分の歌だけに集中するのではなく、これまで以上に周りの音に耳を向けてセッションで音楽を作り上げていく、あの感覚も今後の楽曲に活かしていきたいです。

早川:ライブで初披露した「マスカレイド」「Re:prologue」の音源を期待してくれている方も多いでしょうが……お楽しみに。

伊澄:小編成で小さめの会場でのライブも続けて行きます。アレンジや編成の自由度もジャズの魅力ですから。

──そのとき限りの演奏を近い距離で体験できるのはファンの方も嬉しいでしょうしね。

伊澄:最初にお話しした経緯からも、「swing,sing」は武道館やドームを目指すようなコンテンツではないんです。夢はむしろその逆、小さな会場の方にあったりします。究極的には、実際のカフェで、カフェとして普通に営業して、みなさんにコーヒーなどを楽しんでいただきながら、その隅のスペースでキャストが歌いバンドが演奏している。そんなことができたら最高だと思っているんです。


「swing,sing」楽曲をジャズとオーディオの観点で楽しむ

「swing,sing」を通してジャズとオーディオに興味湧いてきた!という方に向けて、八乙女菫(CV: 二ノ宮ゆい)さん歌唱楽曲からジャズ的オーディオ的な聴きどころをピックアップ。「なるほど音楽にはこういう聴き込み方もあって、よい音で聴けるオーディオがあればそれがもっと捗るわけか」と伝われば幸いだ。

『夢の中へ』swing,sing 八乙女菫 (CV:二ノ宮ゆい)

もちろんボーカルに注目!まずは「ダイナミクス」だ。ダイナミクスとは一般には音の大小のこと。しかし「歌のダイナミクス」は実際には、声の大小だけではなく、地声と息成分のミックス具合の変化、マイクとの距離の調整など、様々な方法による「歌の抑揚」全般と捉えた方が適当だ。この曲この歌はそれが素晴らしく豊か。

フレーズの歌い始めと語尾の表現にも注目。息継ぎを強めに出すか柔らかく入れるか、歌い終わりの語尾と次の歌い始めに向けての息継ぎをなめらかつなぐか区切りを立たせるかといった、ちょっとした使い分けによって、歌の表情が格段に豊かになっている。

そしてそういった細やかな表現がリスナーに届くまでには、それを捉えるレコーディングやそれを活かすミキシングの技術やセンスも関わってくるわけだ。

ことさらそれに意識を向けずとも、その結果としての歌の情感は自然とリスナーの心に届いてくる。であるがそれもその表現をちゃんと届けてくれるオーディオがあってこそ。そしてこの歌の情感に酔えるリスナーこそ、この歌の表現をより余さず伝えてくれるよりよいオーディオで聴いたときの、感動の伸び代も大きいことだろう。

『まどろみ』swing,sing 八乙女菫 (CV:二ノ宮ゆい), 朝比奈日葵 (CV:田口華有)

この曲ではもう少しマニアックに、ベースの聴こえ方に注目。二ノ宮さんも触れていたように、ウッドベースという楽器はアタックが丸みを帯びており、再生において輪郭がぼやけやすい。それでいてこの曲のようなピアノトリオ、ピアノ/ベース/ドラムスという小編成においては特に、ベースの役割も極めて大きい。それが聴こえにくいのは大問題だ。この曲の魅力を存分に味わうにはウッドベースをしっかり再生できるオーディオが必要と言える。

そのために必要なオーディオ要素は実は、ローエンドの響きの豊かさではない。むしろその上のミドルレンジの質。ベースの音を太らせすぎないためのローミッドのスッキリ感や、アタックを際立たせるハイミッドの速さなどを備えた、クリアでスピーディーな中域描写だ。必要なのは低音のボリューム感ではなく中音の明瞭さ!と考えてほしい。それを備えるイヤホンやDAPで聴けば、この曲のまさにまどろみ感、体をゆったり揺らすリズムの表現に、ベースが大きく貢献していることもわかるだろう。

なおもちろん、冒頭の八乙女さん(二ノ宮さん)が息を吸い込むそのブレスの美しさにも注目。むしろそこがいちばん大事!

(試聴に用いたシステム:DAP:Astel&Kern KANN MAX、イヤホン:qdc Tiger)


二ノ宮ゆいさん、伊澄アキさん、早川博隆さんにご試聴いただいたAstell&Kern製品一覧

1. A&norma SR35

クアッドDACと新世代アンプ技術を搭載したスタンダードラインプレーヤー高音質・コンパクト・長時間再生のポータブルオーディオプレーヤーにおける3つのキーポイントを高次元で両立したモデル

2. AK PA10

Astell&Kern、ブランド初のアナログポータブルヘッドホンアンプ4.4mm5極トゥルーバランス入出力とアナログClass-Aアンプ、ハードウェアクロスフィード搭載

3. A&ultima SP3000

“Luxury Meets Innovation” 世界初のデュアルオーディオ回路とHEXAオーディオ回路構造の最新DAC採用豪華さと革新が出会い、新たな価値を生み出す真の次世代フラッグシップモデル

4. ACRO CA1000T

“All-In-One Head-Fi Audio System” ESS最新フラッグシップ8ch DAC ES9039MPROをデュアルDAC構成で採用真空管とOP-AMPのトリプルアンプシステムと高出力4段階ゲイン搭載

5. AK ZERO2

4種の異なるドライバーで構成したQuad-brid設計と超精密クロスオーバーネットワークを採用したAstell&KernオリジナルIEM第2弾モデル