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かつしかトリオ:「3人の共作でコンテンツを作っているということが、ひとつのキーワード」

「かつしかトリオ? 誰?」 と、淡い色合いのジャケ写を見て首をかしげた方も多かったことでしょう。アニメの主題歌でもなく、なんのタイアップもなく、特価のセール音源でも安価なコンピレーション・アルバムでもない、無名の新人トリオの作品だなんて??? かつしかトリオの正体は、日本を代表するフュージョンバンド、カシオペアの初期に在籍したドラムス・神保彰/キーボード・向谷実/ベース・櫻井哲夫の3人による、ファンの方なら気絶しそうな夢のスーパー・トリオだったのです。この大御所3人の共演を、いったいどれだけ長く待ったことでしょう。四半世紀を経てのアンサンブルということですから、もう約25年も経つのですから、久しぶりにもほどがある。3人分の合算なら、間違いなく太鼓判ハイレゾ音源の作品数ナンバーワンです。実際に発表された新作 『Red Express』 を聴いたら、手に汗握るハイレゾ・サウンドが飛び出してきました。もうこれはインタビューをお願いするしかありません。


『かつしかトリオ』96kHz/24bit

かつしかトリオ

「西野さん、よくあんな質問できましたね~。ドキドキしましたよ。」

かつしかトリオさんのインタビューの帰り道、同行した担当者も驚いた、禁断のあの質問。おそらくファンの皆さんなら誰もが聞きたい話題だと思います。ところが、かつしかトリオさんの取材記事を読んでも、どこにもその答えがありません。もしかしたら質問NG?

ええい、ここはファンの皆さんに変わり、私が質問するしかありません。神保さんとは2010年に書いた著書でインタビューして以来、ハイレゾのイベントやラジオのゲストにも数多く来ていただいています。櫻井さんは、私の会社が開発するベース用ケーブルを愛用していただいており、今回の新作レコーディングでも採用されたとのこと。向谷さんは初対面ですが・・・。

さすがに私も最後にこの質問をするときはドギマギしましたが、ファンの皆さんとともに納得できる回答を得られることができました。ぜひインタビューの最後までお楽しみください。


新作の共作について

向谷:かつしかトリオは神保さんが発起人として始まりました。我々3人、いろいろなバンド経験や音楽活動をやってきて 「一番いいカタチって何?」 と考えたときの答えが、全員がフラットでありイーブンであり、創り上げたものが我々のものだという共作というスタイルでした。今回の新作では、Aメロを誰が作ってサビは誰が作ってというより、演奏したりアレンジしたりパフォーマンスしたりというところを含めた3人のパフォーマンスが、作品としての共作です。曲によって、大半のところが神保さんの曲もあるし、僕がいろいろ割り込んでいじっちゃった曲もあるし、櫻井さんが難しいフレーズを書いてきた曲もある。それぞれの曲をみんなで共作して持つことで、非常に曲作りが自由にできるし、活動がすごくホンワカに楽しくできるんです。かつしかトリオって、実は3人の共作でコンテンツを作っているということが、ひとつのキーワードになっているのかな。

神保:ビートルズのレノン=マッカートニー的な感じでしょうか。後年になって、実はこの曲は全部ジョンさんが作ったんだとか、これは全部ポールさんの曲だったというのが出てきましたけど、全部のクレジットはレノン=マッカートニー名義なんです。かつしかトリオの共作も、そういう感じだと思いますね。


新作の録音方法について

向谷:基本的に3人同時に演奏する一発録りでした。なので、PVが公開されている『Red Express』 みたいに、映像も一緒に撮れちゃう。でも今、ライブが近くなってきて、僕からお二方に相談事がいっぱいある(笑)。実は、ライブであの曲を再現するのにいろいろ大変なんです。一発録りといってもオーバーダビングした音はあるので、ライブではどうしよっかな~(笑)。

でも、ドライブ感っていうんですかね。スタジオの録音って、まとめようと思えばいくらでもまとめられるけど、それを壊しながら良いものを作るというのが難しい。その点、せーので演奏したほうがグルーヴは出るし、鮮度も高いし、ライブ感も出ます。とはいえ、『Red Express』 は本当に難曲でした。

神保:『Red Express』 はそのうちスコアもアップしないといけないですかね?

櫻井:『Red Express』 はスコアがないと、耳コピはちょっと大変ですよ。



アナログ録音時代からハイレゾへ

向谷:デジタル録音は、カシオペアの4作目 『MAKE UP CITY』 からで、住友3Mのデジタル・テープレコーダーを使いました。地震で止まらなくなっちゃったの覚えてる(笑)? デジタル録音は、その後のソニーPCM-3324からPCM-3348、そして現代のPro Toolsまで経験してきています。

このデジタルの流れというのは当然のことなので、音質について様々な挑戦はしてきたんですよ。例えば、当時はマスターにUマチックのテープデッキを使うといった、あらゆるところにデジタルでないものが混じっていたんですよね。アナログ工程を混ぜるという究極のやり方として、直接PCM-1630に入れないで、ハーフインチのアナログ・テープのマスターを作っていたときがあります。アナログ・テープの自然なコンプレッシングや、アナログの磁気メディアの蒸着で起きる独特のヌメリ的なサウンドを利用して、そのアナログ・テープの音源をマスタリングして出すという手法です。レコードのラッカー盤をマスターに使ったこともあります。そういった挑戦から、どんな音が求めていた音なのかということを試行錯誤してきました。

いろいろやってきたんですけど、結局は最終的な完成形はデジタル・データなので、最近ではデジタル録音だけです。今回の新作も、ランドマークスタジオのエンジニアの佐藤宏章さんにお任せしました。

新作での音質的な注目点ですが、今回の3曲のうち 『Red Express』 と、他の2曲のドラムの音が全然違うでしょ? 実際にスネア・ドラムを替えているんだけど、アンビエンスとエフェクトを含めたドラムの音像感が凄く良くて。『柴又トワイライト』 のベースなんて、あのベースの音にあのスネアの音って最高だよね。最高の具材を最高の調味料で食べたって感じ。

今はエンジニアさんの技術で、スタジオの鳴りを含めて綺麗にデジタルの中で再現できればそれでいいんじゃないかと思っています。エンジニアさんに、あんまり口出さないよね我々。どうなの?

神保:僕はあんまり出さないほうです。

向谷:ミュージシャン同様、エンジニアさんも素敵な感性でアーティスティック活動しています。かつしかトリオのレコーディングは、エンジニアさんもひとりのチームとして、ミュージシャン的なバンドメンバーのような形でお願いしています。そういう音楽制作の中で、デジタル・テクノロジーが上手く使われていれば、特に今はそんなに気にしないですね。

櫻井:デジタル録音のほうが、いろんなことがコンピューターの中で出来て便利ですよね、やっぱり。


共作時の音楽データのやりとりについて

向谷:新作がどうやって作られたかというと、MIDIデータのやり取りだったんだよね。

神保:そうですね、あまり対面では会わなかったです。

向谷:MIDIデータで曲をもらうとき、単純な音符のデータだけじゃなく、音色情報も付いてくるケースもありました。その音色データに近い音色で弾いて、様々なアイデアを付け足してからMIDIファイル上に戻して送り返す。その作業を数回繰り返した後に、僕のスタジオに集まり、デモを聴いてもらいました。曲のイメージが固まったら、今度はそのデータから譜面を打ち出します。wavなどの音声データでやりとりすると、譜面起こしが面倒なんですよ。MIDIデータのほうが、意図が伝わりやすい。曲の骨格がどうなっているか、そこから肉付けしたらこうなるだろうということが、3人とも経験があるから見えてくるんです。一番時間が、手間がかかったのは 『Red Express』。もう、櫻井さんが凄いフレーズを書いてくるから(笑)。櫻井さんが書いてきた譜面を僕が弾いてデータ化したんですけど、弾くのにレギュラーテンポで弾けなくて、最初は半分くらいのテンポで弾きました。

櫻井:『Red Express』 の、中間の複雑なパートのところです。アレは神保くんが 「そういうパーツがあったら面白いんじゃない?」 って(笑)。

向谷:そうそう、軽く言うんだよね(笑)。

櫻井:僕も、神保くんが言うなら 「じゃあ頑張ろうかな」 って書きました(笑)。ユニゾンなら以前もあったんですけど、今回は3人みんなバラバラのほうがいいかなと思い、ベースとキーボードを2声に分けて、それもちょっと独特な感じの2声にしたんですよ。僕がトップのほうを弾いて、難しいパートを向谷さんに振ったので、ずいぶんやりにくかったと思います。

向谷:あれね、ベースの人は運指的に弾けるかもしれないけど、ピアノにとってあのフレーズの運指はものすごく難しい。

櫻井:運指はベースもたいへんですよ。運指もそうなんだけど、フレーズ的にもかなりたいへん(笑)。

向谷:ドミソの分解系とアプローチする半音進行のところが混在してるんで、狙いが外されているから凄く難しい。

神保:MIDIデータって、共作のやり取りとしてはベストですよね。

櫻井: MIDIデータは音の並べ方までコミュニケーションできるので、集まらなくても共有できるデータとしては凄くいいかなって思います。

向谷:今流行りのリモートで、在宅の共作(笑)。MIDIデータでの共作をやって良かったと思うのは、結構な時間をかけられたこと。こんなに時間かけたこと、今まで無かったかも。レコーディングまでに時間があったので、MIDIデータで多くのやり取りができたんです。このツアーが上手く終わったら、『Red Express』 に続く第2の難曲に挑戦してみたいな。

神保:だんだんハードルが上がってきますね(笑)。


新作における、神保さんの複雑なドラム・ソロについて

神保:よくわかんないリズムのやつですね。

向谷:あれはもうリズム・キープがたいへんですよ(笑)。

櫻井:レコーディングのときは楽なんですよ、ちゃんとクリック聞きながら演っているので。果たしてライブでできるかなと(笑)。

向谷:僕は 『Red Express』 を練習するために、キーボードだけの音を抜いたクリックが入っていない録音データをもらってあるんです。それで練習しているんだけど、あそこのドラム・ソロはもうねぇ。ライブでは、もう櫻井くんの顔を見ながら 「このへん?」 って弾こうかと(笑)。

櫻井:あのドラム・ソロは、ハイハットを普通の4/4で踏みながらってできないの?

神保:いやいや、ライブでは、ああいうアプローチじゃないのを考えてますから。分かりやすいやつを(笑)。

櫻井:あれは本当にわかんなくなっちゃう。

神保:わかんなくなるっていう意図のもと演ってるから(笑)。ずっこけるみたいな。

櫻井:最近の神保くんのソロは、ああいうのが多いんですよ。20年前くらいにドラムのデニス・チェンバースと演ったときに、ああいうアプローチが凄く多くて。今の神保くんがこういったプレイをするのが凄く新鮮で、エッシャーのだまし絵のように、同じタイムの中に違う拍子で演奏する人が共存するみたいなリズムを、1小節だけじゃなく随所に入れてくるんです。すごく面白いと思います。

向谷:高等技術すぎて、僕みたいな凡人には分からなくなっちゃう。アレアレみたいな感じ(笑)。

神保:では、ライブは穏やかに、すごく分かりやすくトントントン♪っていうソロにしましょうか(笑)。

『柴又トワイライト』 のベース・プレイについて

櫻井:あれはピックで弾いています。『柴又トワイライト』 は、ダンスモノというリクエストが神保くんからあって。神保くんはスラップのイメージだったらしいんですけど、僕はダンスバンドCHICのベーシスト、バーナード・エドワーズのイメージでいこうと。バーナード・エドワーズは、指で弾いたりピックで演ったりと、曲によって様々な奏法アプローチをしています。僕は、『柴又トワイライト』 のシンプルなベースラインを考えたときに、ピックでやったほうがエッジが立っていいかなと思ったんです。指やスラップで弾いても良かったんですけど、ピックで演ることで、ああいうテイストが出てくる。ピックアップのバランスは、リアが7、フロントが3。ハンバッカーを両方鳴らすことで、ちょっとエッジが出るようにしてローをしっかり出すようなセッティングです。ピックは、かなりブリッジ寄りで弾いています

向谷:ベースは3曲ともいい音してたよね。ベースの低域がいい感じに抜きん出てる。ベース・ブーストをしてないの。低域をバーンとブーストして、ローを出しすぎてるのとは違うよね。

櫻井:ホント? 嬉しいな~。シンプルなセッティングにしているんですよ。

向谷:低域の形がしっかりしているんで、音程感が分かりやすい。ライブでもあの音の感じがいいと思うな~。これより低域を膨らませないほうがいいよ。

櫻井:楽器のローはそんなに持ち上げていなくて5くらい。ミッドはフル、ハイは7くらいのセッティングです。


『Red Express』 のシンセ・ソロついて

向谷:昔はミニモーグといったアナログ・シンセを使っていたんですけど、今回は新しくシンセサイザーNord Stage 3というのを、かつしかトリオのレコーディングから使っています。いつもヤマハの楽器が中心のなかで、Nordはヤマハが輸入している楽器だからいいだろうということで買いました。この赤いデザインのNord Stage 3が、絵面として『Red Express』 とすごく合っているんです。

今回のNord Stage 3も、曲によってはモノモードです。どんなに弾いても和音にならないで、そのかわり音をぶっとくする。ちょっと懐かしい音だなと思います。こういうNord Stage 3のような新しい楽器でも、デジタルなんだけどアナログのオシレーターっぽいシミュレーションがあるので、それをぶつけると音がぶ厚くなります。

ベンドのかけ方にもこだわりがあって、かけすぎるとノートの移動のたびにウイーンウイーンという音になっちゃうので、先着優先とか後着優先というモノ・シンセの特徴を使っています。演奏のタイミングによって、ヌメッとくるときとストッとくるときがある。

海外のアーティストもシンセ・ソロがブームになっているみたいですから、テクニカルな人はいっぱいいるなかでも負けないで頑張ろうかなと思っています。


かつしかトリオの展望

向谷:もし順調にいって、かつしかトリオが来年秋くらいにライブができるとしたら、ツアーのエリアを拡大したいですね。あと、やっぱりアルバムも作ろうよ。

櫻井:まだ新人バンドで3曲しかないですから(笑)。

向谷:かつしかトリオって、知っている人しか知らないじゃん。もうバンド名は、かつしかトリオって言っちゃったもんだから、もうこのトリオ名ですよ。

神保:もうずーっと、かつしかトリオでしょうね(笑)。

向谷:でも徐々に定着しつつあるところが不思議だよね。でも、コメントで 「バンド名は何とかしたほうがよろしんじゃないですか?」 って書いている人もいないわけじゃないけど(笑)。でも、海外の人も含めて、『Red Express』 は凄い喜んでくれて。

かつしかトリオとしてのライブは、今年はこのツアーで終わり。来年まで、3人のスケジュール的にライブはできそうにないので、その間はレコーディングしてますよ。


今回のツアーについて

神保:レコーディングはシンプルなドラム・セッティングでしたが、ライブではトリガー付きのドラムセットで、足元のペダル類もフル装備です。今回のライブでは、僕や櫻井さんが活躍するシーンもありますので、お楽しみに。

向谷:僕の喋りだけのコーナーもあります(笑)。

神保:じゃあ、我々はその時はハケますよ(笑)。


我々ファンが、かつしかトリオを応援し続けたら、将来的に “かつしかトリオ featuring ギター” というような可能性はあるのでしょうか?

向谷:どうですかね~。

櫻井:今は何とも言えないですね。

向谷:もともと、3人だけでいいのか? ゲストを入れるのか? それはギターに留まらず、あらゆるジャンルの楽器を含めたゲストということで、実際に話し合ったともあるし、そういう機会が無かったわけではないんですが、今のところ、やっぱり3人でいこうと。

神保:当面はこのトリオを固めていく方向です。

向谷:物足りないかもしれないけど、なんとか3人で(笑)。もちろんご存知の通り、ギターを入れて4人のカシオペアというバンドでやってきた。そういう大きな足跡というか、印象をお持ちの方も当然いらっしゃるのは我々も分かっています。もちろんギターを加えた形を取ればカシオペアのスタイルに近くなると思うんですが、3人で演奏するトリオの微妙なバランスが、僕は個人的には緊張感と向上心につながっているなと感じています。

ちょっと余談になるんですけど、僕は電車の発車メロディーを作っているんですけど、ラッシュ時間帯の乗降しにくい駅って、わざと3拍子にするんです。音楽的に乗れよ乗れよという直線的なことをやると、お客様に対して失礼だし、鉄道会社のエゴになってしまう。拍子を変えることで、何となく電車に乗らなきゃいけないなという雰囲気にするのに、実は3拍子ってすごくいいんですよ。

もう一人いたら、もしかしたら安定するかもしれないけど、ギリギリのトライアングルで演奏することで、各々が支えるためにどうしようかということも考えます。意外と3の組み合わせっていうのは、やれる限り面白いんじゃないかな。負担はもちろんありますけど、そこは長年の演奏経験を元に努力すれば、なんとかなるんじゃないかと(笑)。ということで、当面はこの3名で行かせていただきたいです。

神保:やっぱりそういう流れがあるんでしょうね。それに沿っていかないと、無理なことをやろうとすると上手くいかない。ですから、かつしかトリオがこのように実際の形になってきたというのは、そういう流れがあったんだと思います。

ーー新作アルバム制作の暁には、ぜひまた取材させてください。かつしかトリオを全力で応援します!


神保・向谷・櫻井:ありがとうございます!