1973年に発売された『HOSONO HOUSE』……多くのリスナーにとって、音楽による深い慈しみを感じたくなったときに戻ってくる大切なアルバムの一つでもあるだろう。50年以上にわたる活動でカントリー、R&B、フォーク、ロック、フュージョン、テクノ、ファンク、アンビエントなど多様な音楽的変遷を辿った細野の原点と言える作品は、音楽ファンなら誰もが親しめる開放的かつ洒脱なテイストを持ちながら、なにやら強い厭世観も漂う。そんな楽曲群を“ホーム・レコーディング”の手法で紡いだ奇跡のようなサウンドも特徴だ。
本作は、ウェル・メイドのお手本のようなこの名盤のカバー集。国内外の13アーティストによる全13曲を収録している(「恋は桃色」と「薔薇と野獣」の重複を含む)。どの楽曲も、個性的な世界観を提示しつつオリジナルへのリスペクトを多分に感じさせる。原曲の勘どころを押さえつつ、解体〜再構築を大胆に行ったもの、その後の細野の足跡をタイムマシンで見てきたように感じるものなど実に多様なアレンジが展開されていて楽しい。
シンガー・ソングライターmei eharaの「住所不定無職低収入」はエレクトロニカなアレンジと独自のコード解釈によって楽曲の新たな魅力を引き出している。韓国のバンドSE SO NEONによる「パーティー」はラウンジ+ホラー(?)なテイストにゾクッとさせられる。「録音している時はタイムスリップしているような気分でした」と言う安部勇磨の「冬越え」はエキゾティカを巧みに採り入れ、新たな景色を見せてくれる。そして、折に触れて細野作品をカバーしている盟友・矢野顕子による「ろっかばいまいべいびい」はさすがの貫禄、ピアノの弾き語りでリスナーの耳を捉えて離さない。また、Pearl & The Oysters、Jerry Paper、Mac DeMarcoといった海外組は日本語の歌詞での歌唱を披露。その心意気にも拍手を贈りたい。なお、早世のアーティストrei harakamiの「終わりの季節」(owari no kisetsu)は2005年に発表された彼のアルバム『lust』からの収録だが、モジュール音源一つでほぼ完結させるという独自のアプローチはいまだ強い存在感を放っている。
『HOSONO HOUSE』という70年代ジャパニーズ・ポップの金字塔に、世界中のアーティストが共鳴し、讃えた注目のカバー・プロジェクトの完成を祝いたい。